動き出す労働安全マネジメント(OHSAS 18001)
今更かも知れませんが・・・。ハインリッヒの法則をご存じでしょうか? 1:29:300という比率は、かなり有名な数字ですね。
1件の重大災害が起こった場合、その裏には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが潜在的に隠れている、という法則のことです。
製造現場での機械への巻き込まれ事故、建設現場でのクレーン横転事故、発電所や油槽所の火災、花火工場の爆発事故、解体作業中の建設物崩壊、高所作業での転落、などなど・・・。技術の発展やインフラの向上にも関わらず、労働災害は後を絶ちません。一度でも労災を起こしてしまうと、(報道される・されないに関わらず)その後の対策に膨大な時間とコストがかかる上に、社会的な批判に晒されてしまいます。
どんな時代でもどんな業種でも共通して(経営者が)言わなければならないことは「安全第一」です。労働安全リスクの管理は、経営の基礎なのです。
(ここから先は、若干建設業に特化した話になります)
ところが・・・。
現在の南九州の建設業界では、経営事項審査において、品質マネジメントシステム(ISO 9001)と環境マネジメントシステム(ISO 14001)に対する点数加算がなされていますが、労働安全マネジメントシステム(OHSAS 18001)に対する加点はなされていません。
山梨県や長野県では労働安全(18001)が既に加点対象となっており、認証件数が増えています。2010年以来九州の一部の県でも加点を検討する動きが見られるようになっていますが、 鹿児島でもようやく、将来的には労働安全に配慮した企業に加点の動きがあると報道されました(鹿児島建設新聞2010年8月)。
実際に現場に立つ建設業の職員の方々に意見を聞いてみても、『品質や環境よりもまず安全』という声が圧倒的に大きいのです。労働安全の重要さは、命を賭けて仕事をしている現場作業者の方々ならば直感的に理解していて当然です。
であれば、です。加点の対象になろうがなるまいが、労働安全のリスク回避は経営上の必須要件ということになります。『まずは安全から始めよ』です。
単純に事故を防止するという機能だけでなく、生産性の向上、組織的な健康増進、健全な企業運営、社員満足の向上、社会からの信頼性向上、役割分担の明確化、安全の意識や改善の風土養成などを含めて、労働安全マネジメントシステムに取り組む意義は想像以上に大きいと言えます。
実際当社おいても、(2011年4月以降)労働安全マネジメントシステムのコンサル依頼(あるい問合せ)は間違いなく増えています。まだ経営事項審査の加点対象でもないのに、労働安全マネジメントシステムを取得しようとする組織が増えているのは何故でしょうか? 考えられる理由をいくつか挙げておきます。
① 現在の建設業界では、評定点(工事成績)80点を超えるラインでの競争が始まっており、それ以上の点数を確保するには、他の会社と差別化できる要素が必要である。当然ながら、これまで以上に創意工夫や技術提案などが求められることになり、その意味でも、労働安全マネジメントシステムへの期待が大きい。
② 国土交通省発注の工事では、OHSASの取得を問われるものも出始めており、OHSASの勉強会でCPDSのユニットが取れるなどの特典も始まりつつある。
③ 経営事項審査の加点の有無に関係なく、安全の確保は建設業の必須課題である。一度でも事故を起こせば想像以上のペナルティ(減点、入札制限、表彰が受けられない、など)が課せられるので、それを避けたい。特にここ数年は不景気が続くことが予想されるだけに、安全上の問題が経営に大きな打撃を与える危険性がある。
④ 自社の社員ではない人(下請け業者が連れてきたアルバイト作業員等)が事故を起こしたことで責任を問われ、ペナルティを負う企業が増えており、安全管理が甘い業者とは付き合わない企業が増えている。
⑤ OHSAS 18001は、規格要求事項が環境ISO 14001(環境)とほとんど同じと言っても過言ではなく、環境ISOを取得している企業であれば、非常に馴染みやすい。おまけに、安全教育、安全パトロール、KY活動、安全衛生計画(あるいは安全衛生委員会)などは、建設業の方々は既に(自然に)実施しているので、新たに加わる職員への負担は“ほとんどない”と言える。
⑥ OHSAS 18001:労働安全マネジメントシステムに対する(経営事項審査での)加点の可能性が報道されている。
などが理由でしょう。
他社に先駆けて労働安全マネジメントシステムに取組むことは、外部(役所、取引業者、地域住民、マスコミ等)への大きなアピールになるだけでなく、経営に直結します。それ以前に、大事な社員の生命を担保する強力なツールとなります。今後、積極的な取り組みをする企業がが増えていくかも知れません。
以上